翌日の放課後、翔太は胸の高鳴りを抑えきれず、急ぎ足で校舎を抜けた。空は昨日の不安を裏切るように澄み渡り、雲一つなく、夕焼けが西の空に広がっている。「これなら大丈夫だな…」と小さくつぶやきながら、指定された『星降る丘』へ向かう。
丘へ続く小道は細長く、両脇には背の高い草が揺れていた。翔太のポケットには、昨夜余っていた小さなネジが入ったままだ。その存在がどことなく気になって指先でなぞる。「これ、あとで返さなきゃな…」
丘の上には、すでに美月が待っていた。彼女は、昨夜よりも少し落ち着いた雰囲気で、手には温かい飲み物の入った水筒を持っている。背後には、修理を終えたばかりの望遠鏡が静かに立っていた。
「翔太くん、早いね!」
「ちょっと、楽しみで…」
言ってから照れ笑いを浮かべると、美月も同じように微笑んだ。二人は並んで草の上に腰掛け、背中越しに残照が丘を染めていく。
しばらく他愛ない話を続けた後、美月が言った。「…あのね、昨日はありがとう。本当に助かったよ。あのままだったら、今日ここで見られなかったもん」
「いや、役に立ててよかった。…あ、そうだ」
翔太はポケットからネジを取り出した。「これ、余ってた。もしかして必要だった?」
美月は少し驚いた顔をしたが、すぐに笑い、「ひとつくらいなくても大丈夫だよ」と肩をすくめた。
ふと丘の上に静寂が訪れる。遠くで虫の声が響き始め、空にはひとつ、またひとつと星が現れる。美月がそっと立ち上がり、望遠鏡の位置を調整する。
「もうそろそろ、見えると思う」
そっと翔太を手招きし、二人で望遠鏡を覗いた。闇に浮かぶ星たちが、まるで手を伸ばせば届きそうなほど近くに舞っている。
「…本当に、きれいだ」
「でしょ?」
美月の横顔が柔らかく光っている。翔太は、昨日のような鼓動をまた感じた。彼女とこんなに近くで、同じ空を見上げている。それだけで、胸の奥が温かくなる。
「…流れ星、見えるかな」
「多分、もうすぐ」
美月の指先が翔太の手の甲にそっと触れた。彼女の視線が、ちらりと自分の目を探すように動く。翔太は思わず息を呑んだ。
丘の上に、初夏の夜風が優しく吹き抜ける。
その時、空に一筋の光が走った——鮮やかな流星。
美月が驚きと喜びに満ちた声でささやく。「お願い、叶うかな…」
翔太は次の言葉を飲み込み、美月の手をそっと握るべきか、それともそのまま視線を合わせるべきか、迷いを抱いたまま、時が止まったように感じた。